欧州から学ぶ広域ダイヤの方法論

欧州と日本のsimutranserの皆さん、Guten Tag!alcohol_simuです。
12月もクリスマスが近づき、一年の終わりを感じる時期となりました。街々にクリスマスマーケットが開かれ、美しい電飾で飾られているお伽話のようなこの季節、皆様はどうお過ごしでしょうか。
今回のアドベントカレンダーでは、欧州の鉄道ダイヤ設定をもとに、広域にまたがるダイヤ設定について考察しました。グリュー・ワインとシュトレンのお供にお読みいただければ幸いです。大体の街は明日でマーケット終わりですけどね!
サムネはヨーロッパの某都市です。雪景色が綺麗ですね。雪景色が見れる時期に太陽が出ているというのは、この町では貴重なのです。
(おことわり)
・この記事はOTRPの使用を前提としています。スタンダード版ではダイヤを組むことができないため、推奨いたしません。ドイツ鉄道の再現プレイになってしまいます。
・この記事における欧州は、主に西欧・中欧のことを指しています。長距離列車の多いロシアとその周辺国では事情が異なりますので、あらかじめご了承ください。
・この記事はスマホでの閲覧に最適化されています。PCでは画像が馬鹿でかいかもですが、個人ブログだから許してください。
・この記事の本文の執筆に関しては、chatGPTの助けを借りています。
・出典のない写真は著者・協力者撮影です。
・このノートはSimutrans Advent Calendar 2023の21日目の記事です。
広域でのネットワークを設定
Simutransのダイヤプレイに関する記事は数多くありますが、それらの大半は都市近郊の電鉄線のダイヤ設定に焦点を当てています。しかしながら、Simutransを楽しむ上で都市近郊線以外にも、大都市同士を結ぶ遠距離の列車線を敷設する機会も多いのが実情です。遠距離の列車線に関するダイヤの考察には、一路線で完結するダイヤについての例が見受けられますが、広域にまたがるダイヤに関する考察は意外と少ないようです。この点に注目し、今回は広域の列車網を構成する欧州の鉄道を参考に、広域の列車網の作成について考えてみましょう。
日本の鉄道は高速鉄道網の整備が進む中で、新幹線やその培養特急などの特定の運行形態が増加しています。これにより、鉄道の運行系統が比較的細切れになり、広域の列車網を形成するのが難しい状況となっています。また、新幹線建設前の国鉄時代は、広域の列車網が存在していたものの、列車ダイヤに一定の法則性がなく、実装が非常に困難であるという課題も抱えていました。また、上尾事件のように需要を満たせない事例も見受けられました。
一方で、欧州では高速鉄道の建設後も広域の列車網が維持され、洗練された系統設定が行われています。このため、欧州の現行ダイヤを参考にすることが、Simutransにおける広域のネットワーク形成において有益であると考えられます。日本国内でも、近鉄やJR四国が同様の試みを行っていますが、前者は電鉄としての性格が強く、後者は試行錯誤の途中であり、人口規模も小さいことから、今回は欧州の例を取り上げて考察を進めます。欧州の豊富な経験を参考にすることで、主に日本を舞台としたSimutransのプレイでも広域の列車網をより効果的に構築する手助けとなるでしょう。
以降、以下に示す架空の地域を題材にどのようにダイヤを組んでいこうか?ということについて考察していきます。灰色が架空の地域の領域を示し、黒丸が大都市を示しています。

地域間系統の設定 - [日本] 特急・新幹線・夜行列車など / [欧州] InterCity・EuroCity・各種高速列車・Euronightなど

地域間列車は、主要駅のみに停車し、長時間かけて長距離を運行する列車であり、地域の端から端までを結び、主要都市同士を結節する重要な列車系統です。
ヨーロッパでは、高速鉄道(最高速度:200~320km/h)や客車列車(最高速度:160~230km/h)が地域間列車として運行されています。これらの列車は長距離の移動に対応するため、車内設備が充実しており、供食設備の連結や車内販売が行われることもあります。ただし、国土が小さい国家では、乗車時間が短いため供食設備を連結せず、車内も近郊電車に近いものとなっていることがあります(例:オランダ)。
日本をもとにしたプレイを行う場合、主に新幹線・特急型を地域間系統に運用することになるでしょう。元にする時代背景に従って、食堂車の連結などを適宜調整することで、さまざまな時代の国鉄・JRの雰囲気を楽しむことができると考えます。長距離を運行する列車はロマンがあるものです。
地域間列車の設定においては、全ての都市から全ての都市への直通は無謀であり、効率的な運行が求められます。複数本(都市数によりますが、10本以下が望ましい)の地域間列車系統を構築し、それぞれが異なる都市を結ぶ形で地域間列車のアクセスを提供することをお勧めします。
先述した架空地域の場合、例えば以下のように地域間列車の系統を運行することで、マップ上の全ての都市に地域間列車サービスを行き届かせることが可能です。

上記の例の場合、縦方向のIC1とIC2系統・横方向のIC11とIC12系統によって地域中のすべての大都市がカバーされています。以下、いくつかの系統設定のコツを挙げていきます。
・碁盤の目より三角形を意識する

碁盤の目状の路線網の場合、同一方向の系統同士が接続しません。その結果、同一方向の系統間を移動する場合、2回の乗り換えが必要となってしまいます。これはお客さんの利便性を悪化させるのみならず、反対方向の系統に局所的な需要を発生させてしまう可能性があります。この現象を軽減するためには、なるべく系統間にできる図形が四角形ではなく三角形になるようにすることが推奨されます。もしプレイする地域が広いのであれば、斜め方向の系統を設定するのもいいかもしれません。
・都市規模にばらつきがある場合、大都市を結ぶ系統を複数設定する
実際のマップでは、すべての都市の人口が同じということはないでしょう。地域の発展の歴史の中で、特定の都市が政治の中心として、商業の中心として、宗教の中心として大きくなっていくことは当然のことです。では、このような場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
まず一つ考えられることとしては、東海道本線・東海道新幹線のように大都市間を結ぶ幹線を一本敷設して、その幹線で沿線の大都市を拾うことです。この方法は大都市間を結ぶルート上の土地が比較的限られていて、各都市が線状に並んでいる時に有効です。
一方で、都市が面的に並んでいる場合はどうでしょう。もちろん、先の方法を使用して、主要幹線から多くの支線を伸ばすことも考えられますが、あまり効率的な手段ではありません。主要幹線から外れてしまった各都市は不便な支線の利用を強いられますし、乗り換え回数も増えてしまいます。また、この場合主要幹線に多くの人やモノが集中してしまい、パンクすることも考えられます。
ここで、主要都市間に経由の違う2つの幹線を敷設し、それぞれの道中で地方都市を拾っていく方法を提案します。この場合、主要幹線から外れる都市の数を減らすことができるだけでなく、それぞれの幹線にかかる負荷を軽減することができます。

上の図はドイツ国鉄におけるハンブルクーフランクフルト間の運行系統を示しています。ハノーファー周りの系統とブレーメン周りの系統があり、それぞれが毎時1本運行しています。この結果、ハンブルクーフランクフルトには毎時2本の長距離列車が確保されています。
ただし、現実は常に理論通りにはいかないものです。ブレーメン周りの系統はブレーメン〜ケルンの高速化が遅れており、ハノーファー周りの系統よりも所要時間が1時間程度長くなっています。加えてフランクフルト中央駅の線路容量の関係で、ブレーメン周りの系統は中央駅に発着できず、郊外の空港駅発着となっています。その結果、多くのユーザーはハノーファー周りの系統を利用しているのが実情です。
一方で、simutransでは所要時間差はそこまで大きな問題になりません。これはsimutransが所要時間ではなくルートコストを基に乗客の乗車ルートを決定しているからです。今回のケースでは、フランクフルト中央駅周辺の乗客がハノーファー経由系統に、空港駅周辺の乗客や飛行機に乗り換える乗客がブレーメン経由系統に流れることとなります。
ここで、ブレーメン経由系統をフランクフルト中央駅に延長し、両系統の発着駅をフランクフルトHbfに統一したら何が起こるでしょうか。この場合、ハンブルクからフランクフルト中央駅への旅客がハノーファー経由もブレーメン経由も利用するようになるため、前の状況と比べてハノーファー経由系統に乗車する旅客が減少し、ブレーメン経由系統に乗車する旅客が増加すると考えられます。また、ハンブルクーフランクフルト中央駅間を移送する旅客数の配分は、ハンブルク・フランクフルト両都市での発車タイミングを調整することで変更が可能になります。
実際のsimutransのプレイでは、これ以外にも中間駅からの需要や乗り換え需要など、旅客数を左右する多くのfactorが存在します。臨機応変に系統設定を変更し、うまく旅客流動に対応していきたいものです。
・列車同士の接続を行う
乗り換え駅で長距離列車の旅客の乗り換えを円滑に行い、駅舎への多くの旅客の滞留を防ぐ方法として、長距離列車同士の接続を行うこともいいでしょう。実際ドイツ国鉄・ハノーファー駅ではブレーメン=ベルリン・ライプチヒのICとハンブルク=ミュンヘン方面のICEが対面接続を行っており、ブレーメン←→ミュンヘン・ハンブルク←→ベルリン・ライプチヒの相互移動が行いやすくなっています。
simutransでもこれを行うことには多くのメリットがあります。駅舎に滞留する旅客数を減らすことにもつながりますし、列車の運転整理上も都合がいいです。加えて、景観的にも美しくなることが期待されます。
しかしながら、simutransで長距離系統同士の対面接続を行い、意図した系統から意図した系統に客を流すためにはルートコストの調整が必須となります。特にドイツのような面的に広がった路線網では、意図通りに旅客を流すのが難しい場合もあります。
さらに、このような対面接続を行った場合、乗り換え後の系統に短時間だけ乗車する旅客も乗り換え後の系統に流れ込んでしまうため、旅客の局所的な集中につながってしまうリスクもあります。大都市近郊でこのような接続を行うのはあまり推奨されないでしょう。大都市近郊に停車する長距離列車から中心部への旅客を乗り換えさせる場合は、長距離列車ではなく近郊列車・短距離列車に乗り換えさせるダイヤを組んだ方がいい場合もあります。いずれにせよ、臨機応変にダイヤを設定することが求められるでしょう。
ところで、スイスでは「タクトダイヤ」とも呼ばれる特徴的な列車接続が行われています。その駅に接続する路線のパターンをできる限り同期させ、駅に一斉に電車が到着し、一斉に電車が発車するようにするものです。電車のみならず駅を発着するバス路線などでもこの試みが行われている場合もあり、非常に利便性が高いダイヤとなっています。SImutrans上でタクトダイヤを再現するのもいいのかもしれません。
JR四国は来年3月から、徳島駅にこのタクトダイヤを導入する予定のようです。公式のプレスリリースを添付します。7ページにタクトダイヤの説明があります。
https://www.jr-shikoku.co.jp/03_news/press/2023%2012%2015%2003.pdf↗地域内系統の設定 - [日本] 快速・急行 / [欧州] Regional Express・InterRegio

地域内列車は2〜3つの都市を結び、2〜3時間をかけて中距離を運行する列車です。複数の都市を結節し、地域内の中距離交通の主軸となるとともに、都市と都市の間の町にも停車し、これらの町と都市を、そした町同士を繋ぐ役割を持っています。需要の太い路線では快速列車に相当し、需要の細い路線では普通列車にも相当する列車です。
地域内列車の事情はヨーロッパでも国ごとに異なりますが、ドイツやスイスでは二階建て客車・二階建て電車(最高速度:160~200km/h)を中心に運行されています。これらの列車は車内販売こそありませんが、1〜2時間の移動に適応するよう、ある程度高い居住性が維持されています。なお、オランダなど国土の小さい国家では地域内列車もIC(InterCity)として運行されているケースがあるので、注意が必要です。
地域内列車の設定においては、都市間の結節を行うとともに沿線の小都市・町村からの需要を満たす必要があります。複数のケースにおいて地域内列車の設定例を挙げてみたので、需要においじて臨機応変にこれらの系統を組み合わせてください。
なお、地域内列車は地域間列車の待避を行うことはあまりありません。待避を行う際も主要駅で待避を行うケースが多いようです。地域内列車を主要駅に10分程度停車しておき、その間に地域間列車を専攻させるのが良いでしょう。こうするとSImutransの仕様的に地域内列車の運行区間を利用する旅客が地域内列車に乗ってくれて、地域間列車が混雑することを避けることができます。
・地域間列車と並行する系統(例:ミュンヘン〜ニュルンベルク)
地域内列車設定例の一例として、地域間列車と並行し地域間列車の補完を行う系統が考えられます。この代表例として、ドイツ国鉄ミュンヘン〜ニュルンベルク間が挙げられます。この系統はバイエルン地方の主要都市であるミュンヘン・ニュルンベルク間をインゴルシュタット経由で結びつつ、途中の小都市に停車して地域輸送の役割も果たしています。

・地域間列車を補完する系統(例:フランクフルト(オーデル)〜ベルリン〜ブランデンブルク)
地域内列車設定例の一例として、地域間列車では直行できない区間を走行し地域間列車の補完を行う系統が考えられます。この代表例として、ドイツ国鉄フランクフルト(オーデル)〜ベルリン〜ブランデンブルク間が挙げられます。地域間列車として、フランクフルト(オーデル)〜ベルリン間にはEuroCity(ポーランド国鉄運営:ワルシャワ〜ベルリン)が、ベルリン〜ブランデンブルク間にはIC・ICEが運行されているものの、フランクフルト(オーデル)〜ブランデンブルクを直行することはできません。この系統はベルリン近郊輸送や沿線の小都市間の輸送に加え、フランクフルト(オーデル)〜ブランデンブルク間を直行する役割も果たしているのです。

・支線直通(例:ブレーマーハーフェン〜ブレーメン〜ハノーファー)
地域内列車設定例の一例として、支線直通系統が考えられます。この代表例として、ドイツ国鉄ブレーマーハーフェン〜ブレーメン〜ハノーファー間が挙げられます。ブレーマーハーフェンはブレーメン郊外の港湾都市であり、一定の都市規模を誇っていますが、長距離列車網とはほとんど接続されていません。ブレーマーハーフェン〜ハノーファー間の地域内列車は、ブレーマーハーフェン〜ブレーメン間の支線とブレーメン〜ハノーファー間の本線を結節しているのです。

・地方路線の快速列車(例:ハノーファー〜ゴスラー〜ハルツブルク)
地方路線にも快速を設定することは考えられます。例としてハノーファー〜ゴスラー〜ハルツブルクの系統を示しました。ゴスラーやハルツブルクはハルツ地方の中心都市であり、ある程度の規模を有しています。特にゴスラーは世界遺産の町となっており、多くの観光客が訪れる街となっています。この系統はハノーファー近郊区間をHildesheim Hbfまで快速運転したのち、そこからの地方区間では各駅に停車しています。(ハルツ狭軌鉄道もこの辺りを走っているはずですが、あまり覚えていない...)

各駅停車系統の設定 - [日本] 各停 / [欧州] Regional Bahn・S-Bahn (一部都市)

各駅停車系統は主に都市内や都市近郊の比較的需要が大きい区間を運行する列車です。各駅停車系統については広域ネットワークの形成にはあまり関係ありませんが、以下のような系統の設定例があるようです。

上:片方の都市圏にのみ各駅停車(ブレーメン〜オスナブリュック)
中:各駅停車が直通(ブレーメン〜ハンブルク)
下:両方の都市圏内にのみ各駅停車(ブレーメン〜ハノーファー)
都市交通

ヨーロッパにはある程度小さい街にも地下鉄や路面電車があります。人口規模が小さい都市では2〜3両編成の短い車両の地下鉄が運行されている例も多いです。欧州を再現するのであれば小さい街にも都市交通を整備することが良いでしょう。正直日本の方が都市交通網については優れている面も多く、特に欧州云々を気にしなくてもいいでしょう。
まとめ
ここまで長々と欧州の鉄道ダイヤに関する解説を行ってきました。欧州の鉄道車両は日本の雰囲気に適合しないものも多く、通常のsimutransやNSでは使用する機会が少ないですし、使用した場合にも某NSのように顰蹙を買うこともあります(その節はごめんなさい...)。しかしながら、欧州の鉄道の運行系統や運行ダイヤは日本を題材としたSimutransプレイにおいても参考にすることができるのではないでしょうか。
この記事を参考に、広域の路線網設計やダイヤ設計にチャレンジしてみる人が一人でも生まれれば嬉しいです。
それではまた会いましょう!続編はクリスマス後に投稿予定です!
Dann bis bald !
A bientôt donc !
Ci vediamo presto, allora !
追記
続編、Simutrans Advent Calendar 2023の26日目はこちら!
https://simutrans-portal.128-bit.net/articles/sbbcffffs
記事投稿日にプラハで発生した事件について、哀悼の意を表明します。
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